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私立大学研究ブランディング事業

研究チーム⑦



2019年度 研究内容・研究成果

研究内容|名古屋市(熱田区)の空き家の実態調査


基礎調査として、名古屋市16区の空き家の状況比較から熱田区の特徴を把握する。下記の図はその一例であるが、2008年から2018年までの10年間、熱田区は腐朽・破損の有る空き家の減少率が最も高い区であった(熱田区の減少率は2.44%、中区は2.43%)。しかし、2018年現在、熱田区の腐朽・破損の有る空き家率の水準は3.48%であり、名古屋市の平均2.94%(愛知県の平均2.59%)を大きく上回っている。以上を踏まえ、熱田区の空き家がどのように分布しているのか、その老朽度はどのような状況なのか、その実態について詳細な調査を行う。

名古屋市16区の腐朽・破損の有る空き家率の経年比較(2008年と2018年の比較)

データ出所:総務省「住宅・土地統計調査」。詳細は上山・秋山・井澤(2020)「名古屋市の空き家発生の要因分析並びに熱田区市町村の空き家分布状況に関する報告書」名古屋学院大学総合研究所ディスカッションペーパーNo.138を参照。

研究成果|熱田区の空き家問題は老朽化した空き家の解消


住宅地図作成会社ゼンリンから2019年1月現在の空き家分布のGIS情報(地理情報システム)の提供を受け、そのデータに基づき、2020年1月に全空き家物件の再確認と老朽度について調査した。その結果、名古屋市熱田区内において計638件の空き家が確認された(戸建361件、長屋建125件、アパート15件、店舗兼住宅124件、個人用商店舗13件。なおゼンリンによる空き家の判断基準はあくまで外観目視であることに注意が必要である)。

下記の図は2020年1月現在の熱田区内における空き家の分布を表している。65歳以上の高齢化が低い(濃い緑色の)エリアでは空き家が存在しない傾向が見られるものの、熱田区全体に空き家が点在していることがわかる。また空き家の老朽度を見ると、赤色(かなり悪い)・黄色(悪い)・ピンク色(やや悪い)の点が多く、外壁や塀等の破損や黒ずみ等の汚れがひどい、あるいは樹木等の伸びから近隣に迷惑をかけてい
るような空き家の点在が多い(全体の90.4%が老朽化の見られる空き家である)。

なお、名古屋市16区(3時点)のデータを用いて回帰分析(Pooled OLS)を行った結果、転入率や転出率が腐朽・破損の無い空き家の減少に影響を与えているが、腐朽・破損の有る空き家の減少にはつながっていなかった。名古屋市に対する住宅ニーズは高く、腐朽・破損の無い空き家は転入や転出の発生に伴い不動産市場で取引されているが、老朽化した空き家は取引されずに放置されている傾向が見られる。熱田区の空き家問題はいかに老朽化した空き家を解消するかという問題に帰着されるだろう。

名古屋市熱田区内の空き家の分布(2020年1月現在)

空き家は戸建・長屋建・アパート・店舗兼住宅・個人用小店舗を含む。詳細は上山・秋山・井澤(2020)を参照。

2020年度 研究内容・研究成果

研究内容|熱田区における空き家の外部不経済の検証


空き家の問題は、一見、空き家に隣接する近隣住民の問題と捉えられがちであるが、空き家の存在はより広い範囲で悪影響(外部不経済の発生)をもたらす可能性を孕む。例えば、欧米を始め、国内においてもいくつかのエリアで空き家の存在が地価に影響するという分析結果が得られているが、熱田区内の115地点の住宅地価(固定資産税評価額)を対象に検証したところ、腐朽・破損の有る空き家の存在は住宅地価にマイナスの影響を与えていることが判明した。すなわち、空き家の存在は熱田区の不動産市場において外部不経済として反映しており、空き家の問題は隣接する近隣住民の問題だけではなく、熱田区の資産価値(ブランド)に影響している大きな課題であることが示唆される。

それでは、空き家の問題にどのように取り組むべきだろうか。空き家の問題は、主に各自治体が対処しているが、空き家の解消には人・時間・費用がかかり、自治体のみで対処するには限定的となる。現在、空き家が著しく老朽化し近隣住民の苦情の声が大きくなり自治体が行動を起こすパターンが見られるが、本来、空き家の問題は老朽化する前に対処しなければならない。そのためには民間(不動産業者等)との連携が不可欠と考えられるが、不動産業者は空き家についてどう認識しているのだろうか。不動産業者に対し空き家に関する調査を実施した。

研究成果|官民連携の必要性・民間は空き家を活用するニーズがある


全国の不動産業(建物売買業、土地売買業、不動産代理業・仲介業)に携わる200名を対象に、空き家について調査を実施した。まず、腐朽・破損の有る空き家が持家戸建の取引価格にどの程度の影響を与えるか尋ねた結果、約9割(89.5%)が影響を与えると回答している(約4分の1は影響が大きいと感じている)。不動産業者にとっても、空き家はビジネスにおいて無視できない存在となっていることがわかる。

そして、空き家の利活用の観点から、空き家所有者の情報を入手できるシステムがあれば利用したいか尋ねたところ、約7割弱(66.5%)が利用したいと回答している。さらに、空き家の利活用を目的として自治体と連携を取りたいか聞いたところ、半数以上(55.5%)が連携を希望している。多くの不動産業者が空き家をビジネスの対象として積極的に捉えており、空き家所有者の情報やその利活用について自治体と連携
したいと考えているようである。自治体は空き家所有者の個人情報を適切に管理するシステムを構築しながら、不動産業者等の民間と連携して対処する(不動産市場に乗せる)ことが問われるのではないだろうか。実際、民間にはそのニーズがある。

持家戸建の取引価格に与える腐朽・破損の有る空き家の存在の影響度合い

空き家所有者情報の利用希望

空き家利活用について自治体との連携希望

株式会社サーベイリサーチセンターへの委託調査(調査時期2021年6月・サンプル数200・全国調査)

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