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私立大学研究ブランディング事業

研究チーム③



2019年度 研究内容・研究成果

研究内容|研究仮定とフィールドの設定


プロジェクトのテーマは、「物語の価値を分かち合う観光の形」を模索することである。特定の地域空間(場所)において、移り変わる時の流れの中で、そこで活動する人々の暮らしや生業が生起し、文化資源として蓄積していく。それら地域に埋め込まれた資源には、可視的(有形)資源と非可視的(無形)の資源があり、それらのストックを「今と言う時間」において紡ぐことで「物語」が語られる。このように「物語」として編集された資源の総体は、地域内外の人々がシェアすることで、内部ではシビック・プライドが向上し、一方、外部では、地域外の人々を地域へ誘うことにつながっていくと仮定した。

そもそも観光は、国の光を観ること。それが、単なる金儲けに陥ったのは、観光地の文化を単なる「消費財」として捉える風潮と相関している。こうした繋がりの希薄な観光地は、来訪者にとって「面白い/面白くない」という安易な切り分けで選別されていく。そこでは、価値の消費はあっても、共有は生まれにくい。物語を媒介し、場所に埋め込まれた資源を共有することで生まれる観光には、「学習」が欠かせない。

本研究では、熱田区を中心とする名古屋市における「生業」を手がかりとした資源の編集による良質なテキスト(物語)の制作による観光の形を模索する。その具体的な研究フィールドとして、以下の3つを設定した。

研究成果|基礎的なコンテンツ収集と報告


それぞれのケーススタディにおいて、物語の基礎となるコンテンツ(資源)を収集する活動として、主として基礎的な調査研究活動を展開した。陶磁器産業《Ⅰ》に関しては、既存の調査研究の成果を踏まえた書籍の発刊に向けた作業を行った。また、名古屋製陶所《Ⅱ》に関しては、資料収集や聞き取り調査(本地陶業等)を行った。その中で、多角的な議論を深めるために、年度内に「名古屋製陶所研究会(陶磁器業界関係者、名古屋製陶所関係者等8名で構成)」を8回に亘って開催し、名古屋において当該製陶所が果たしてきた役割や、曖昧な史実の確認などを行った。

その過程で収集した諸資料(例として、寺沢力の手記「宿縁に生きる」)などを手がかりとして、その中から浮かびあがる名古屋製陶所の「物語」の材料を選び出した。

その際、できる限り視野を広げて考察することに心がけ、名古屋製陶所が名古屋財界との強い関係の元に設立された点や、経営の根幹となる思想的な背景に浄土真宗の影響を受けていた可能性などからも検証を行った。一方、航空機産業《Ⅲ》に関しては、資料収集(2019年12月25日防衛省防衛研究所戦史研究センター)などを行うとともに、研究成果の発刊と市民向けの成果発表(『戦争と企業―都市名古屋への航空機工業の集積と戦後民需転換―』名古屋学院大学総合研究所ディスカッションペーパー№135、2020年3月、および、やっとかめ文化祭・講演会:2020年11月14日)を実施し、成果の報告を行った。

2020年度 研究内容・研究成果

研究内容|価値創造の可能性を切り開く物語観光


前年度に設定した各ケーススタディにおいて、シェアすべき価値(資源)を抽出した。ものづくりを固有の歴史的特徴とする名古屋において、前近代からのストックに根ざしつつ、主として近代化の過程の中で蓄積してきた生業/産業の成果である。それらは移ろいやすい近代という時代の中で、栄枯盛衰を繰り返し、今日では産業的な命脈が途絶えたものもある。しかし、文化に形を変えてストックされた資源は、それらのシェアを通じて、新たな創造の萌芽となるであろう。物語をシェアする観光は、単に来訪者が価値を消費するのではなく、価値創造の可能性を切り開くモデルを想定している。潜在的な資源の再評価のプロセスを通じた新たなものづくりの価値創造へと繋がるような産業観光の姿を模索する。
  1. 近代化の過程の中で、名古屋で発展した「名古屋絵付」の技法は、現存する作品などを通じて、その文化的価値をシェアすることができる。それらの伝統技法を伝承し、新たなものづくりを模索する作り手と、創造の成果を暮らしに取り入れる使い手をつなぐ役割を果たす。
  2. 「名古屋製陶所」のように現存しない資源の価値共有は、可視的な物としては「作品」の展示があり、また、非可視的な「記憶」は、物語の中でシェアすることが必要である。そのため展示/フォーラムを企画(2021年10月に延期)。
  3. 熱田区白鳥貯木場から始まった木材産業の中から時計産業、そして航空機産業へと発展した地域の変化について愛知時計電機を通して歴史的な「地域工業化」の姿を掘り起こした。

研究成果|文化資本としての物語のシェア


物語の元となる地域固有の文化的なストックは、時に、文化資本として「次の文化を育む元手」となることもあろう。かつての生業や産業に基づく「物語」は、地域来訪への動機を高めるに留まらず、歴史を理解することで、これまでとは異なる創造的な活動を生み出すことも期待される。各ケースでの主な成果は下記のとおりである。
  1. 物語を取り纏めた研究図書を発刊(『名古屋絵付け物語』(一般財団法人名古屋陶磁器会館、2020年6月。古池担当分は、第3章:「物語の終焉、その先に見えるもの」)。
  2. 聞き取り調査や研究会により名古屋製陶所に関する史実や経営哲学などの無形の地域資源の実態を明らかにした。
  3. 熱田区白鳥貯木場、木材産業、時計産業、そして航空機産業の立地場所と主な製品についての当時の写真や地図などを収集し、住んでいる方及び訪れる方がふれられ、歴史資産を不断に感じ取れるものについて検討した。

次に、研究の到達点を踏まえ、残された課題や今後の展望を述べる。
  1. 「名古屋の伝統技法」の物語は、出版物を通じたシェアが可能となった。今後は、シェアの範囲を広げることなど、伝統技法の価値を作り手と使い手が十分にシェアできる多様な方策を検討したい。
  2. 名古屋の土地に根ざした『名陶』の経営哲学から学ぶべき価値を抽出し、シビック・プライドの向上や新たなものづくりに繋げていく。
  3. 既に発見・発掘をすすめている「あつた産業再発見マイスター」と共同で熱田生涯学習センターが企画した講演会の担当を通じて、熱田区白鳥貯木場、木材産業、時計産業、そして航空機産業にまつわる産業的な歴史資産を共有し、対外的に発信する途について洗練化を図りたい。

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