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私立大学研究ブランディング事業

研究チーム②



2019年度 研究内容・研究成果

研究内容|コミュニティに対応する商店街の探索的研究


プロジェクトでは、新しい福祉型商店街における「コミュニティ対応力」とはどのようなものかを把握するため、まずは各地の先端的な事例を探索的に調査することにしました。というのは、地域商業・商店街における魅力の要素として、これまでの研究では多様性(diversity)があげられてきましたが、それは業種・業態の多さや非チェーン店の割合といった商業的側面のみで捉えられていたからです。こうした視点は、2000年以降のイギリスにおけるBID(Business ImprovementDistrict)の取組みの中で重要な要素であることが指摘されてきました。

一方で、本学のストック・シェアリング研究の事業全体において目指していることは、地域の優良なストック(資源)をシェアリング、すなわち再編集して新たな地域価値を創出し、それを地域のあらゆる面で分かち合うことを実現することです。このことを踏まえると、地域商業・商店街を売買の商業的側面だけで捉えることは十分でないといえます。

例えば、介護や子育て、医療などは少子高齢化社会において地域が直面する共通した課題です。したがって、地域コミュニティを基盤とする地域商業・商店街においては、単に売買を通した地域との関係のみで良いのではなく、商売に直接関係しないような取組み、すなわちコミュニティ対応といった役割が求められているといえます。つまり、地域商業・商店街は地域コミュニティを基盤とするからこそ、それ単体で存在するということはあり得ず、地域コミュニティが豊かになってこそ、地域商業・商店街も豊かになるということができるのです。そこでプロジェクトでは、商店街のコミュニティ対応力を重要な要素として捉え、それがどのようなものかを把握するため、先行事例を探索的に研究することにしました。ここでは特に、繁華街などの都心部に立地するような商店街ではなく、住宅街など地域に密着したタイプの商店街を選択して調査しました。

研究成果|地域に密着する商店街の姿


ここでは、一例として札幌市の発寒北(はっさむきた)商店街振興組合(ハツキタ商店街)の事例を紹介します。ハツキタは「40年後さっぽろで一番住みやすいまちへ」を合言葉として、地域住民との間に商売ベースの関係を超えた、徹底したコミュニティベースの関係を構築しています。

具体的には、商店街が開設したコミュニティ施設では、デイサービスや塾・会議室のレンタルスペースが組合によって運営されています。この施設では、地域の高齢者や子供たちが集まることから世代を超えた交流を生み出すきっかけとなっています。また同施設では、不動産や工務店など地元事業者を集約した業務の受付窓口(ハツキタくらしの安心窓口)も商店街によって担われています。この窓口があることで、通常はなかなか接する機会を持てなかった地元事業者と地域住民とが接点を持てるようになりました。地域に密着した商店街が受付窓口として仲介しているからこそ、地域住民も安心して業者を利用することができます。さらには、地元事業者の地域行事への積極的な参加を生み出すといった、地域内におけるより一層の関係構築ももたらしました。

商店街がこうした積極的な取組みが実行できているのは、徹底して地域コミュニティのための活動を展開するという思いであり、その結果としての地域住民や地元事業者との強い信頼関係があったからだということができます。つまり、商店街はコミュニティに対して、つながりを生み出す取組み主体というだけでなく、それを展開する場でもあるということが見出されました。

2020年度 研究内容・研究成果

研究内容|ストックとしてのソーシャルキャピタル


前年度より実施している調査から、事例の商店街のいずれもが、地域内において商売ベースの関係だけにとどまらず、徹底したコミュニティベースの関係を構築していることが見受けられました。もちろん商売が成り立たなくては商店街も存立することはできませんが、それでもコミュニティの一員として地域に貢献する中で、その結果として商売が成り立つというものでした。つまり、コミュニティに対応する商店街とは、単なる商業施設というだけでなく地域内のつながりをもたらすコミュニティの施設でもあるということができます。

こうしたコミュニティにおける地域内でのつながりは、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)として理解することができます。ソーシャルキャピタルとは、社会学などで用いられる概念ですが、大まかには、共通の目的に向けて人々の協力を推進し相互利益を実現することに貢献するつながりのことをいいます。したがって、ソーシャルキャピタルは地域にとって重要なストックだということができるでしょう。また、商店街はそうした人々のつながりとしてのソーシャルキャピタルをシェアリングする場としても適していると考えられます。それは商店街という具体的な場があることが、多様なプレイヤーが集まり、地域の活動や取組みを展開する場としても空間的に認識されやすいと考えられるからです。

その意味からも、プロジェクトでは先行事例の調査だけにとどまるのではなく、並行してストック・シェアリングの取組みを実践することも目指しています。具体的には、熱田区の金山商店街振興組合と私のゼミで商品企画や地域イベントの参加などの取組みを数年にわたって行っています。そこからソーシャルキャピタルというストックを構築・拡大しシェアリングすることで、事業全体の目的であるストック・シェアリングの実際的な一つの形として展開していきたいと考えています。

研究成果|ソーシャルキャピタルを醸成する継続的取組み


商店街の多くは、もはや商業施設としてだけで存続することは簡単ではありません。むしろ、これからはコミュニティの構成要素としての商店街という捉え方で、いかに地域の持続可能性に貢献するかが大事だといえます。コミュニティは多様な主体によって構成されていますが、商店街もその一つだからこそ他の主体との連携関係をもつことが重要です。そうした地域に開かれた存在であることが、コミュニティにおいて必要な存在となることにつながっていくと考えられます。

当然ながら、大学も金山商店街と連携関係を構築しうる多様なプレイヤーの一つとしてみることができ、ソーシャルキャピタルを構成する地域の重要なストックということができます。ただし、それらはただ存在しているだけで自動的にストックとしての関係が構築されるわけではなく、意識的に築いていくことが必要です。重要なことは活動内容の大小ではなく、たとえ小規模な取組みであったとしても、そうした活動自体を継続することです。そうすることで学生は自身の通う地域への関心にもつながり、商店街側にも関係構築の意識が醸成されていきます。

実際に、商店街内では学生の取組みに対して好意的に捉えてくれる向きもあり、年々、協力を申し出てくれる商業者もあらわれています。たしかに学生は卒業しますが、その活動自体が後輩に引継がれることで、現在の良好な関係は継続されていくと考えられます。今後は、関係の範囲を大学と商店街だけではなく、地域住民や地元企業など、より多様な主体にまで広げることで、良質なストックのシェアリングに貢献していきたいと思います。

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