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国際文化学部

[あとがき]


本書は、名古屋学院大学研究助成「宗教と民族の対立・交流の現代歴史学的研究」(研究期間:二〇一七~二〇年度、研究代表者:鹿毛敏夫)による研究成果の一部である。人文系研究への予算が削られる昨今の学問的情勢のなか、この学際共同研究の意義を理解し、当大学の課題研究の一つとして助成採択いただいたことに、まずはお礼申し上げたい。
ここに、多分野の研究者が集った本研究グループによる四年間の研究軌跡を記しておきたい。
[二〇一七年度]
・第一回全体会議(六月十四日)
・第一回講演会・ワークショップ (十二月二日)
・村井章介(歴史学) 「鎌倉北条氏と南宋禅林―無象静照をめぐる人びと」
・第一回研究報告会(一月十日)
・佐伯奈津子(地域研究) 「インドネシア・アチェ州におけるイスラーム刑法適用と人権」
・鹿毛敏夫 (歴史学) 「十六世紀日本の戦国大名権力とイエズス会・中国明朝―その相互認識」
[二〇一八年度]
・第二回全体会議(六月十七日)
・第二回研究報告会(六月十七日)
・黒柳志仁(宗教学)「ヨーロッパ社会における脱宗教(ライシテ)について」
・メイヨー・クリストファー(歴史学)「文学と歴史の接点における戦国の記憶形成」
・第一回共同学際調査(ミャンマー、八月二十四~二十八日)
・第二回講演会・ワークショップ (十一月二十四日)
・今福龍太(文化人類学) 「一亡命作家の軌跡:西欧キリスト教世界の対岸から―バルセロナ、サラエヴォ、マラケシュ」
・第二回共同学際調査(長野県岡谷市、三月六~七日)

[二〇一九年度]
・第三回全体会議(六月二十九日)
・第三回研究報告会(六月二十九日)
・宮坂清(文化人類学)「インド・ラダックのチベット仏教ナショナリズム」
・梶原彩子(現代日本語学)「日本人の外国人受容プロセス―保育所における看護師の職業意識の変容から」
・第三回共同学際調査(オーストリア、九月二~八日) 
・第三回講演会・ワークショップ (十二月一日)
・井上順孝(宗教社会学)「ボーダレス化する世界と日本の宗教文化」
[二〇二〇年度]
・研究成果執筆活動(四月~八月)
・第四回共同学際調査(愛知県名古屋市、十一月十八日)
・成果論集編集活動(十月~三月)

上記の他に、二〇一六年度には本研究の前身研究グループによる研究報告会(十二月二十一日)を開き、人見泰弘「ビルマ系難民と祖国の民政化―移民トランスナショナリズムの視点から」、および吉田達矢「近代の名古屋と「回教圏」との関係に関する研究―「印度」との関係についての中間報告」をもとに、学際的議論も行った。

近年に編まれた『キリスト教と寛容―中近世の日本とヨーロッパ』(慶應義塾大学出版会、二〇一九年)の編者の一人、野々瀬浩司氏は、同書の終章「全体の総括と寛容の問題を理解するための視角」において、宗教的寛容の概念が時代性や地域性において個別の意味をもつものであり、また、他者への敵意を抑える気持ちと結びつく寛容が、常に不寛容に転換しうる危うさを有する側面を強調する。その上で、宗教的寛容の問題を、思想史のみでなく、哲学・政治学・社会学・宗教学・文学等から学際的に分析することの有効性を指摘している。

十三世紀鎌倉時代の渡海僧の活動や、十六世紀戦国大名の国家外交権意識という歴史学的事象から、二十一世紀現代の移民・難民・亡命あるいはマイノリティの問題、宗教ナショナリズムの動向と暴力・戦争、そして多文化共生の地域づくりの課題に至るまで、地球上の「異宗教」と「多民族」が表出する分析課題の裾野は広い。本書の論者十二名が織りなす多分野融合によるこの実験的考察が、宗教と民族の共存への指針をわずかでも示すものとなり得ているならば、望外の喜びである。

二〇二一年六月六日
研究代表者 鹿毛敏夫