グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ


現代社会学部

大学教授が語るドラッカー経営の本質(9)


マネジメント-基本と原則⑦ 真の管理とマネジメントの技能

第6章「マネジメントの技能」は、管理を監視や統制と同一視する誤解を正す章である。ドラッカーは、マネジメントを特別な資質ではなく、実践としての技能(Skills)と捉える。しかしそれは単なる技術の寄せ集めではない。組織を成果へ導くための原理であり、再現可能な「やり方」である。
第一の技能はコミュニケーション(Communication)である。ドラッカーは次の一句で本質を突く。
Communication presupposes shared experience
(コミュニケーションは「共有された経験」を前提とする。)
ここでいう共有とは、同じ言葉を使うことではない。相手の経験・文脈に接続して初めて理解が成立するという意味である。命令は従わせることはできても、成果を保証しない。理解がなければ、優先順位も責任も共有されず、組織は情報過多でも機能不全に陥る。管理の出発点は、理解を設計することにある。
第二は意思決定(Decision)である。意思決定とは問題処理ではない。何を行い、何をやめるかを選択することである。すべてを維持しようとする態度は決断ではない。優先順位を定め、資源を集中させることによってのみ成果は生まれる。不確実性の中で責任を引き受けるのがマネジャーであり、先送りは「決めない」という決定である。決断の質は、結局のところ「何を捨てるか」で測られる。
第三は測定(Measurement)である。しかしここでドラッカーは管理(Control)を再定義する。
Control is measurement and information
(管理とは「測定と情報」である。)
管理は監視でも抑圧でもない。成果を測り、必要な情報を提供し、目標との差異を明らかにし、自己修正を可能にする仕組みである。過去の数字を並べるだけでは管理にならない。未来の行動を変える情報体系であってこそ意味を持つ。真の管理は外から人を縛ることではなく、自己統制(Self-Control)を可能にする条件を整えることである。
そして、これら三つの技能を束ねる統合原理が人材育成(People Development)である。強み(Strength)を発見し、それを成果へ結びつける責任と機会を設計することが人材育成である。人が成長しなければ技能は組織に根づかない。コミュニケーションは理解を育て、意思決定は責任を育て、測定は成長の方向を示す。人材育成は副次的業務ではなく、環境変化に適応し続けるための基盤である。
ドラッカーは、技能は知識社会における中核資源であるとも示唆する。資本や設備は模倣できるが、判断力と統合力は容易には移転できない。ゆえにマネジメントの技能は競争優位の源泉となる。組織の成果は偶然ではなく、鍛えられた技能の蓄積から生まれる。
マネジメントの技能とは、人を支配する技術ではない。成果を可能にする環境を設計する能力である。理解と責任と成長を、日々の仕事の中で確実な成果へ結びつける――ここに技能の意味がある。
本書の核心はこれである。
中部経済新聞 2026年5月27日掲載

  1. ホーム
  2.  >  現代社会学部
  3.  >  きよし先生が語る「ドラッカー経営の本質」
  4.  >  大学教授が語るドラッカー経営の本質(9)