グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ


現代社会学部

大学教授が語るドラッカー経営の本質(5)


マネジメント-基本と原則③ 目標設定と戦略計画の本質

ドラッカーにおいては、事業の目標(Objectives)とは単なる数値目標や願望ではない。それは企業が社会の中で何を成し遂げようとするのかを具体化したものであり、経営の意思を外部に向けて明確に示す装置である。目標がなければ、企業は活動していても前進していない。忙しさと成果を混同する状態に陥る。
目標は複数領域にわたり設定されるべきである。市場における地位(Market Standing)、イノベーション(Innovation)、生産性(Productivity)、資源、収益性、人材育成、社会的責任。重要なのは網羅ではなく選択である。限られた資源をどこに集中するか、何を優先し、何を犠牲にするかを明確にする点に目標設定の本質がある。すべてを同時に追求しようとする企業は、結局どこでも成果を上げられない。
ここで見落としてはならないのは、これらの目標は互いに緊張関係にあるという事実である。市場拡大を優先すれば収益性が低下することがある。研究開発に資源を投入すれば短期利益は圧迫される。人材育成は即効性を持たない。したがって目標設定とは、優先順位を決める行為であり、同時にリスクを引き受ける行為でもある。目標間の葛藤を可視化しなければ、経営は調整不能に陥る。
利益(Profit)の位置づけも精緻である。利益は目的ではない。しかし軽視できない。利益は将来への投資とリスク引受けの源泉であり、存続の条件である。ゆえに利益は「最大化」ではなく「必要水準の確保」として計画されるべき対象となる。ここに短期と長期を統合する論理がある。
こうした目標を行動へ落とし込むのが戦略計画(Strategic Planning)である。だがそれは未来予測でも長期予算でもない。ドラッカーは言う。
Strategic planning deals with the futurity of present decisions.
(戦略計画とは、現在の意思決定の未来性を扱うことである。)
未来は予測できない。しかし、今日の決定は必ず未来を規定する。したがって戦略とは、未来を当てることではなく、今日何に賭け、何をやめるかを決めることである。核心は問いにある。
If we were not in this now, would we go into it?
(もし今それをしていなかったら、改めて参入するか。)
否なら撤退である。しかし撤退は容易ではない。過去の投資や感情的執着が判断を曇らせる。だからこそこの問いは定期的に発せられなければならない。戦略とは継続の理由を確認する作業であると同時に、中止の勇気を継続的に成果を生む形にする営みでもある。
さらに目標には時間軸がある。短期的成果と長期的能力形成を同時に設計しなければならない。資源配分は将来への意思表示であり、戦略は資金と人材の集中によって具体化する。計画とは書類ではなく、責任の所在を明確にした行動体系である。
目標が「どこへ向かうか」を定めるなら、戦略計画は「今日、何を捨て、何に集中するか」を決める営みである。責任を引き受ける意思決定こそが、マネジメントの実体である。
本書の核心はこれである。

中部経済新聞 2026年4月29日掲載

  1. ホーム
  2.  >  現代社会学部
  3.  >  きよし先生が語る「ドラッカー経営の本質」
  4.  >  大学教授が語るドラッカー経営の本質(5)