大学教授が語るドラッカー経営の本質(3)
マネジメント-基本と原則① 真摯さとマネジメントの役割
今回から10回にわたりドラッカーの代表作である「マネジメント-基本と原則」について詳述する。
ドラッカーがマネジメントを論じる際、最初に置く概念が「真摯さ(integrity)」である。これは道徳的理想ではない。組織を成果可能な存在にするための実務上の前提条件である。
ドラッカーは明言する。
Integrity is the foundation of management.
(真摯さこそがマネジメントの基礎である。)
能力や知識があっても、真摯さを欠く者は組織を危うくする。組織は信頼によって機能する。権限を私的目的に用いず、責任を回避せず、成果に向き合う姿勢がなければ、どれほど制度や戦略が整っていても内部から崩れる。真摯さとは、権限を使命と成果に従わせる規律である。
この基礎の上に、ドラッカーはマネジメントの三つの役割を提示する。
第一に、組織固有の使命を果たすことである。企業であれば顧客の創造、病院であれば治療、大学であれば教育と研究。使命とは抽象的理念ではなく、社会に約束された成果である。使命を具体的な成果に翻訳し、資源を配分し、優先順位を明確にすることがマネジメントの第一責任である。使命を忘れれば、組織は内部効率の追求に閉じ、外部との接点を失う。
第二に、仕事を通じて人に成果を上げさせることである。人は単なる労働力ではない。責任と裁量を与えられて初めて力を発揮する存在である。マネジメントの役割は、統制ではなく方向づけである。目標を共有し、役割を明確にし、能力を育成することで、個々の仕事を組織全体の成果へと結びつける。ここでマネジャーは「成果の器官(organ of performance)」として機能する。
第三に、組織が社会に与える影響を処理することである。組織は社会的制度であり、その活動は必ず社会に影響を及ぼす。雇用、環境、地域経済、価値観への影響を無視することはできない。経済的成果(economic performance)だけでは、組織の正統性は確立しない。社会との関係に責任を持つことが、長期的存続の条件である。
この三つは互いに補完し合う。使命を果たさなければ社会的正統性は失われ、人を活かせなければ使命は実現できず、社会への配慮を欠けば成果は持続しない。
さらに重要なのは、これら三つの役割がしばしば相互に緊張関係に立つという点である。短期的な成果を優先すれば人材育成は後回しになり、社会的配慮を軽視すれば信頼は損なわれる。逆に理念を強調するあまり、具体的成果が伴わなければ組織は空洞化する。マネジメントとは、この緊張を回避することではなく、引き受けることである。ここに経営の難しさがあり、同時に価値がある。
マネジメントは権力ではない。成果責任の引き受けである。真摯さを基礎に、使命・人・社会を統合することが、その本質である。
本書の核心はこれである。
中部経済新聞 2026年4月15日掲載
ドラッカーがマネジメントを論じる際、最初に置く概念が「真摯さ(integrity)」である。これは道徳的理想ではない。組織を成果可能な存在にするための実務上の前提条件である。
ドラッカーは明言する。
Integrity is the foundation of management.
(真摯さこそがマネジメントの基礎である。)
能力や知識があっても、真摯さを欠く者は組織を危うくする。組織は信頼によって機能する。権限を私的目的に用いず、責任を回避せず、成果に向き合う姿勢がなければ、どれほど制度や戦略が整っていても内部から崩れる。真摯さとは、権限を使命と成果に従わせる規律である。
この基礎の上に、ドラッカーはマネジメントの三つの役割を提示する。
第一に、組織固有の使命を果たすことである。企業であれば顧客の創造、病院であれば治療、大学であれば教育と研究。使命とは抽象的理念ではなく、社会に約束された成果である。使命を具体的な成果に翻訳し、資源を配分し、優先順位を明確にすることがマネジメントの第一責任である。使命を忘れれば、組織は内部効率の追求に閉じ、外部との接点を失う。
第二に、仕事を通じて人に成果を上げさせることである。人は単なる労働力ではない。責任と裁量を与えられて初めて力を発揮する存在である。マネジメントの役割は、統制ではなく方向づけである。目標を共有し、役割を明確にし、能力を育成することで、個々の仕事を組織全体の成果へと結びつける。ここでマネジャーは「成果の器官(organ of performance)」として機能する。
第三に、組織が社会に与える影響を処理することである。組織は社会的制度であり、その活動は必ず社会に影響を及ぼす。雇用、環境、地域経済、価値観への影響を無視することはできない。経済的成果(economic performance)だけでは、組織の正統性は確立しない。社会との関係に責任を持つことが、長期的存続の条件である。
この三つは互いに補完し合う。使命を果たさなければ社会的正統性は失われ、人を活かせなければ使命は実現できず、社会への配慮を欠けば成果は持続しない。
さらに重要なのは、これら三つの役割がしばしば相互に緊張関係に立つという点である。短期的な成果を優先すれば人材育成は後回しになり、社会的配慮を軽視すれば信頼は損なわれる。逆に理念を強調するあまり、具体的成果が伴わなければ組織は空洞化する。マネジメントとは、この緊張を回避することではなく、引き受けることである。ここに経営の難しさがあり、同時に価値がある。
マネジメントは権力ではない。成果責任の引き受けである。真摯さを基礎に、使命・人・社会を統合することが、その本質である。
本書の核心はこれである。
中部経済新聞 2026年4月15日掲載



