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現代社会学部

大学教授が語るドラッカー経営の本質(16)


共同研究①「変化」を診断 ドラッカー理論を“使える知”へ

『イノベーションと企業家精神』でドラッカーが示した「七つの機会」は、本来イノベーション機会を発見するための理論であった。しかし現代企業が直面している問題は、単に機会を見つけられないことではない。むしろ、「変化を認識できないこと」にある。
AI、脱炭素、人口減少――企業を取り巻く条件は急速に変化している。それにもかかわらず、多くの組織は既存事業や過去の成功体験から抜け出せず、変化への対応が後手に回っている。変化の必要性は理解されながらも、「変わらなければならないと分かっていても動けない」という閉塞が広がっている。
私は近年、この問題を「Perception Gap(認識の乖離)」として捉えている。現代企業は情報量こそ増えている。しかし、その変化をどのような価値創造へ結びつけるかについては十分な議論ができていない。問題は情報不足ではなく、「変化を意味づける力」の低下なのである。
こうした問題意識から、現在私は共同研究者とともに、ドラッカーの「七つの機会」を現代企業向けの診断ツールとして再構成する研究に取り組んでいる。目的は、「機会発見の理論」を「変化対応力」の可視化ツールへ転換することにある。
周知の通り、「七つの機会」は、「予期せぬ成功と失敗」「ギャップ」「ニーズ」「産業構造の変化」「人口構造の変化」「認識の変化」「新しい知識」から構成される。従来、これは企業家がイノベーション機会を探索する枠組みとして理解されてきた。しかし本研究では、それを「企業や人財がどれほど変化を感知し、対応できているか」を測定する診断軸として再定義している。
ここで重要なのは、「変化対応力」を単純に測ることではない。変化が組織や人にどのような影響を与えているかを同時に可視化する点にある。変化は機会であると同時にストレスでもある。
本研究では、企業レベルと人財レベルの二層構造を設定し、Well-Being概念も統合した五十六問の診断モデルを構築している。そこでは、「変革に積極的だが疲弊している組織」と、「安定しているが挑戦を失った組織」を区別しようとしている。いわば「Innovation Fatigue(変革疲労)」の診断でもある。
さらに注目しているのが、企業と個人との認識乖離である。経営陣は危機感を持っているが、現場には共有されていない。このような構造的問題を可視化することも、本研究の目的である。
ドラッカー理論の本質は、本来「読む思想」ではなく「行動へ接続される思想」にあった。イノベーションとは、天才的ひらめきではなく体系的実践である。ならば理論は、「Practical Wisdom(実践知)」として現代組織が扱える形へ再翻訳されなければならない。
問われているのは、変化そのものではない。変化を認識し、意味づけ、価値創造へ転換する力である。
中部経済新聞 2026年7月15日掲載

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