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現代社会学部

大学教授が語るドラッカー経営の本質(15)


イノベーションと企業家精神③ 戦略は市場を選び、創る(=Where)

第Ⅰ部で示されたのは、イノベーションが規律であるということであった。第Ⅱ部では、それを実践する主体としての企業家精神が論じられた。では、その実践はいかにして市場で成果へと転換されるのか。第Ⅲ部が扱うのは、Entrepreneurial Strategy――企業家戦略である。
ドラッカーがここで論じるのは、アイデアの生み方ではない。すでに見てきたイノベーションの機会と企業家精神を、いかに成果へと結びつけるか、そのための戦略である。企業家戦略とは、ひらめきを称賛する思想ではない。イノベーションを組織の通常業務として成立させるための設計思想である。戦略とは既存市場で競争優位を争うことではない。価格や規模で相手を上回ることでもない。企業家戦略とは、新しい位置を確立することである。市場の定義そのものを変える行為である。
第一の戦略はいわゆる「総力戦略(Fustiest with the Mostest)」である。新市場で主導権を握る戦略である。拡大そのものが目的ではない。標準を握り、顧客の期待水準を定義することに本質がある。
第二は「創造的模倣戦略(Creative Imitation)」である。他者の革新を顧客視点で再設計し、市場に適合させる。独創性よりも適合が成果を決める。
第三は「柔道戦略(Entrepreneurial Judo)」である。既存企業の慣性を逆手に取り、競争条件を変える。正面衝突ではなく、位置取りによって優位を築く。
さらにニッチ戦略が示される。専門技術や専門市場、あるいは「関所」を押さえることで独占的地位を確立する。規模追求ではなく集中が鍵である。ここでドラッカーは警告する。企業家戦略を「成功の再現」と誤解してはならない。過去の成功は次の成功を保証しない。むしろ成功をもたらした前提を疑い、変化の中で再定義する姿勢が必要である。企業家戦略とは安定を守る戦略ではない。組織が自らを更新し続けるための戦略である。
これらの戦略に共通する原理は、「顧客創造」にある。The customer is not found; the customer is created. 顧客は発見されるものではなく、創られる。戦略とは競争相手との争いではなく、顧客の定義を変える行為である。市場は所与ではない。設計可能である。戦略とは競争に勝つことではなく、顧客の定義を変えることである。
結論は明快である。企業家戦略とは、イノベーションを例外的出来事にせず、マネジメントの仕事として組織に組み込むことである。①で示された方法、②で示された姿勢を、③で戦略として具体化する。この三部構成によって、本書はイノベーションと企業家精神を、理想論ではなく実行可能な経営体系として提示している。
本書の核心はこれである。
中部経済新聞 2026年7月8日掲載

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